☆は現在在職しておりません。
第330回:『ヘリコバクター・ピロリについて』
外科 長谷川 久美 (日本外科学会専門医/指導医 日本消化器外科学会専門医/指導医 日本消化器病学会専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 マンモグラフィ読影認定医
ピロリ菌は、胃の粘膜に酸性の環境に適応して生息する特殊な菌で、1983年に発見されました。ピロリ菌のいるお母さんが口移しで与えた食べ物から、唾液を介して免疫が未熟な赤ちゃんに感染します。一方、大人には感染しません。
ピロリ菌がいても症状はありませんが、ピロリ菌は自分の周りにアンモニアの毒素を出して慢性胃炎を起こします。鳥肌胃炎といって粘膜は赤く腫れ、高齢者になると粘膜の萎縮が進み、すり切れたカーペットのように白っぽくなります。ピロリ菌感染の胃では、潰瘍や胃癌になりやすく、特に胃癌は、放置すると80代までに約20人に1人が発生します。
ピロリ菌退治の方法は、一週間、抗生剤と胃酸を抑える薬を飲むだけです。8割方いなくなります。除菌できた胃は全く元通りとはいかないものの、つやつやと光沢が出てきます。
ここで重要なのは、たとえ除菌できても、既感染の胃粘膜ではくすぶった胃炎の背景から新しく胃癌が発生したり、除菌前から既に小さな胃癌が発生していたりして、除菌後も30%ぐらいは胃癌の発生リスクはあるということです。更に最近、除菌後の胃癌は、ポリープ型でなく、癌の表面がのっぺりと平坦で、更に粘膜下に浸潤して発見時にはより進行しているということがわかってきています。
ですから、除菌できた方は安心せず、一年に一度の上部内視鏡検査(胃カメラ)を受けて下さい。バリウム検査では、ピロリ菌退治のあと胃粘膜がかえってきれいに修復された後で、平坦型の胃癌が描出されず、適しません。
第329回:『薬剤性顎骨壊死(MRONJ)てなあに?』
~最新の顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023から~
歯科口腔外科 秋月 弘道 (日本口腔外科学会指導医/専門医)
骨粗鬆症の治療薬であるビスホスホネート製剤に関連しておこるBP関連顎骨壊死(顎の骨が死んでしまう病気)は増加しています。しかし近年、それ以外の癌や関節リュウマチに使用されるデノスマブ(Dmab)製剤、ロモソズマブや血管新生阻害薬、免疫調整薬、骨吸収抑制薬などの骨に関連する治療薬でも同様の症状が起きることがわかり、これらは薬剤性顎骨壊死(MRONJ)と呼ばれるようになりました。この病気が起こる頻度は悪性腫瘍に関連するもので数%、骨粗鬆症では0・1%と推定され、それほど高いものではありません。症状は、初期では軽度の疼痛や歯肉の腫脹が生じ、進行とともに骨の露出や炎症の悪化、さらには顎の骨折や皮膚から排膿が起こることもあります。これらの症状はおもに口腔内に見られますので、おもに歯科や口腔外科で診断加療されています。薬剤性顎骨壊死は、お薬を使い始める前に口腔内を精査して虫歯や歯周病を治療し、適切な口腔ケアをおこない細菌感染を防ぐことで予防できます。また、お薬を使用中に抜歯をする場合は、従来、予防的に一時的に休薬していましたが、最新の知見では休薬の有用性を示すエビデンスはなく発症リスクがとくに高い場合をのぞき、薬を止めずに抜歯をする方向に変わってきています。治療法については、軽症では抗菌薬の投与などでよくなる場合も多くあります。重症例では腐骨の除去など外科的治療がおこなわれます。治療は患者の希望や全身状態等を考慮して決定されます。これらのお薬は飲み始める前に歯科で治療すませ、口腔ケアを継続することで予防することができます。万一、病気が起きてしまった場合には早期に治療することによって顎骨への障害や侵襲および機能障害を最小限にすることができます。
第328回:『検診受診率向上による、がん死亡者数低下』
外科 兼子 順 (東京医科歯科大学医学部臨床教授 日本外科学会専門医/指導医 日本消化器内視鏡学会専門医/指導医 厚労省認定臨床研修指導医)
わが国では、がんによる死亡者数が多くても、がん検診の受診率は欧米に比べて低いのが現状です。日本では、女性のがんによる死亡原因のトップは大腸がんですが、その検診受診率は約23%です。また、男性では肺がんが死因の1位ですが、こちらも受診率は26%程度です。受診しなかった人の半数以上が、「心配ならいつでも受診できる」「時間が取れない」などを理由に挙げています。がん検診の普及拡大が、がんによる死亡者を減らすことにつながると見られています。
がんを早期発見し早期治療ができればメリットがあります。①手術も進行がんに比べて縮小手術が可能となり、乳がんなら乳房温存術、胃・大腸がんなら開腹せずに内視鏡でがんの部分を切除することも可能です。②手術・放射線治療・薬剤治療など治療期間や入院日数が短くなるので経済的負担も少なくて済みます。③職場への復帰も早く、家族への負担も少なく、治療後の日常生活にも影響が少なくて済みます。
蓮田病院検診センターでは、子宮がんを除く各種がん検診(肺・乳腺・胃・大腸)を行っています。人間ドックに至っては、ほぼ同じ検査内容で都内相場の約半額の4万8400円で検査できることと、蓮田市・白岡市在住の方は2万7000円還付により、実質2万1400円の支出、久喜市在住の方は2万8000円の還付により、実質2万400円の支出で人間ドックが受けられます。ご自身のためにも、ご家族のためにも、がん検診に関心を持ち、定期的に検診を受けましょう。
第327回:『元気の素、甲状腺ホルモン』
総合診療科 山形 健一
「皆さん、元気ですかー!元気があれば何でもできる!!」偉大なるプロレスラー、故アントニオ猪木さんの名台詞ですね。
喉仏の下あたりにある柔らかい組織、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは元気を出すホルモンです。新陳代謝を良くしたり、心拍数を上げたり、体の活動性を増加させるホルモンです。ただ甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると甲状腺機能亢進症になり、反対に分泌量が足りなくなると甲状腺機能低下症になります。
甲状腺機能亢進症の主な症状は、汗をかきやすく暑がり・動悸息切れ・軟便・イライラ・眼球のとびだし・手指のふるえ・筋力の低下などで、主な病名はバセドウ病です。甲状腺機能低下症の主な症状は、寒がり・やる気が出ない・便秘・物忘れが多い・瞼が腫れぼったい・皮膚の乾燥・脱毛などで、主な病名は橋本病です。どちらも自己免疫疾患のひとつで女性に多いのが特徴です。
亢進症ではホルモンの分泌を抑える内服薬を用いることが一般的ですが、副作用等の理由で使用できない場合は手術や放射線治療が選択されることもあります。低下症ではホルモンを補う内服薬治療が通常選択されます。
亢進症・低下症ともに共通している症状は疲れやすさ・喉仏あたり腫れ・女性の場合は月経異常などです。「うつ病」「更年期障害」と思っていたら実は甲状腺の病気だったということはよくあるようです。主な症状が複数自覚されるような場合は内分泌専門医の受診をお勧めします。
「健康元気で生涯現役!1・2・3 ダー!!」
第326回:『新型コロナウイルス4年目』
理事長 前島 顕太郎
(日本医科大学非常勤講師 日本外科学会指導医/専門医 日本消化器外科学会指導医/専門医 日本消化器内視鏡学会指導医/専門医 日本消化器病学会指導医/専門医 日本消化管学会胃腸科指導医/専門医/認定医 日本大腸肛門病学会指導医/専門医 日本がん治療認定医機構がん治療認定医 消化器がん外科治療認定医 日本食道学会食道科認定医 厚生労働省認定臨床研修医指導医)
新年あけましておめでとうございます。皆様お健やかに新春をお迎えのことと存じます。
昨年もコロナの流行はおさまらず、今年も続いていることと思います。入国制限の緩和や屋外でのマスクの不要など国は対策を徐々に弱めているようですが、コロナは侮れません。いわゆる「第7波」での感染者数は、それまでの数をゆうに超えるものでコロナの感染力の強さを示していました。
コロナの感染経路は3つあり、ウイルスを含む飛沫を直接触ったか、ウイルスが付着したものの表面を触った手指で露出した粘膜を触ることによる接触感染、ウイルスを含む飛沫が口、鼻、目などの露出した粘膜に付着することによる飛沫感染、空中に浮遊するウイルスを含むエアロゾルを吸い込むことによるエアロゾル感染があると言われています。
特に最後のエアロゾル感染はやっかいで、一般的な感染対策では予防が難しいと思います。それゆえにまだまだコロナの終息は見えてこないと思います。
一刻も早く、打てばコロナにかからなくなるワクチンの開発、飲めばコロナが必ず治る薬の開発を待ち望んでおります。